ビヨン・ザ・ボーダー音楽祭チラシ

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2008年から続く「ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭」はヴァイオリニスト・鈴木理恵子が音楽監督を務める国内でも類を見ないフェスティバルだ。20代前半より新日本フィル、読売日響のコンサートミストレスを歴任し、ソリストとしてもアジアを中心に海外で高い評価を得ている鈴木。彼女が培ってきたインターナショナルな視点を通して構成されるプログラムは、回を増すごとに音楽ファンの注目を集めてきた。
今年の10月に横浜にて開催される「2016」では北欧とアジアの国境を超えた(=ビヨンド・ザ・ボーダー)新たなフェーズを迎える。音楽監督を務める鈴木に今回の聴きどころや音楽祭に込めた想いを聴いた。

故郷・横浜から海外へ

―ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭(以下BTB音楽祭)はいわゆるクラシック音楽のフェスティバルとは一線を画した出演者やプログラムが毎回話題となっています。音楽監督として、ご自身の中にある国際的な感覚はどのように育まれたと考えますか?
「私は横浜に生まれました。家に居れば海の向こうから返ってくる船の汽笛が聞こえてきましたし、母と散歩に行くのは山手の外人墓地や山下公園など異国情緒が溢れる街並みでした。」
―日常的に“海外”を感じる街で育ったのですね。
「また、強烈な記憶として残っているのが、大学を卒業した後、どうしても教えを受けたかった往年の巨匠シュリングとミルシュタインを訪ねてジュネーヴ、チューリッヒ、ニースに赴いた時のことです。シュリングの公開マスタークラスではブラームスの協奏曲を演奏する機会に恵まれ、自分の中で演奏家としての何かが開放される感覚を味わいました。海外での演奏活動を経験することで、日本人としての自分のアイデンティティというものに自覚的になったことを覚えています。」
「その後、1995年に北九州の響ホールフェスティヴァルに出演した頃から世界各国の民族音楽に興味を惹かれるようになりました。ニュージランドのジャック・ボディをはじめ多くの作曲家との出会いがありました。自身のリサイタルにオリエンタル的な要素を取り入れたのはこの頃からですが、クラシックの分野ではこのような活動をしていた演奏家は当時殆どいなかったように思います。今回もBTBに出演してくださる笙の石川さんやホーメイの巻上さんとはこの頃からの仲間です。」
「そこから日本アジア文化センターに通いつめたりして、独自にアジアの芸術文化を研究する日々が続きました。当時所属していたビクターのプロデューサーの方の協力もあり、そうした成果がCDとして結実したのが2002年の「from the orient」です。武満徹さん、加古隆さん、高橋悠治さんといった日本人作曲家の他、イサン・ユンや先のジャック・ボディなど環太平洋圏の作曲家の作品を取り上げました。ジャックは、私が彼の「エオリアン・ハープ」を取り上げた以上にアルバムの内容に感動してくれて、ニュージーランドツアーに招いてくれたことを皮切りに、アジア・環太平洋圏のフェスティバル等で数多く演奏する機会を作ってくれました。アジア作曲家会議(ACL、Asian Composers League)でのジャックの業績は言葉に尽くせませんが、残念なことに彼は先日亡くなってしまいました。3日目のガラ・コンサートで「エオリアン・ハープを演奏しようと考えております。」

 
 

ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭の誕生

―そこからどのような経緯でBTB音楽祭の立ち上げに至ったのでしょうか。
「2005年にタイのACLに招かれたときのことです。現地ではジャックの友人である中国人の作曲家とのコンサートを控えていました。ちょうどその時、中国で大規模な反日デモが起こったのです。このことを受けて、ACLに参加していた作曲家たちと自分たちが今何をできるのかと話し合いました。そうしてコンサートでは音楽を通して祈りを捧げるという共通の意識を以て演奏することができました。後に取材に来ていた記者の方から『鈴木さんのこの10年に渡る東西の融合という活動が素晴らしいので、このコンセプトの音楽祭を是非始めてほしい』と仰っていただけたこともBTBを具体的に構想するきっかけになりました。」
―最初のBTB音楽祭は2008年に横浜美術館で開催されました。
「先ほどお話した出自のこともあり、国際色の強いイベントをやるのであれば横浜で、と考えておりました。回を重ねる毎にお客様や公演の聴きにきてくださったコンサートホールの方などからの反響をいただき、私たちの活動を応援していただきながらここまで繋がってきたと思います。」

届けたい想いとは

―鈴木さんのコンセプトを周りの皆さんが共有してくれたからこそ、ということですね。鈴木さんが考えるBTBのコンセプトをもう少し詳しく聞かせていただけますでしょうか?
「私は人前で演奏をするようになってから今に至るまで、自分のための演奏をするという意識を捨てるように心がけています。私は演奏の際には常に作品をはじめ何かに捧げるという意識を持っているのですが、当初それはお客様に向けられていたと思います。ですが今ではもっと漠然としたより大きなものに対して向けられていると感じます。言語化は難しいのですが、「祈り」という言い方ができるでしょうか。ただこちらから発信するというだけでもなく、演奏家としても何か崇高なものに近づきたいという魅惑的なものでもあります。」
「第1回から参加してくれている石川さんや巻上さんをはじめ、これまで出演してくださった演奏家の皆さんとは音楽を通して表現したい想いを共有してくださっているように感じます。私にとって大切なのは、音楽のジャンルも勿論ですがそれ以上に同じ想いが集合し、ステージ上で表現することで、お客様に届けることなのだと思います。」
「クラシックのコンサートでは見られないようなジャンルの取り合わせで、且つそれぞれの分野とのコラボレーションも行います。ステージには画家である松原賢さんの作品を飾ります。松原さんの作品は空間的、視覚的にBTBのコンセプトに合致する存在感があり、今回も出品をお願いしました。お客様には私たちのパフォーマンスを自由に感じ取っていただきたいですし、自由なインスピレーションを持って音楽を聴くという体験をしてほしいと願っています。」
―モーツァルト、クライスラー、ショパンにリストと、クラシックの名曲も多数演奏が予定されていますが、BTBのプログラムの中だと普段とはまた違う魅力が引き出されるのではないかと期待しています。
クラシックというと、ピアニストの若林顕さんが前回より出演されていますね。
「本格的なヴィルトゥオーゾ・ピアニストとしてのイメージが強いのでこの中では意外に感じられる方もいるかもしれませんが、若林さんはクラシック以外の芸術に対しても驚くほどに博識で、探究心旺盛な方です。且つそれらのエッセンスを的確に感じ取り芸術に昇華させるセンスがあります。オリエンタル文化に対しても同様で、前回も彼が参加することで出演者全体のチームワークがぐっと固まったように思いました。BTBという普段とは異なるステージでの彼の演奏も聴きどころのひとつですね。」
―また、今回の大きな特徴として、北欧音楽との融合が挙げられます。
「スウェーデンからピアニストのマッツ・ヤンソン氏を招聘します。ヤンソンさんは若林さんの古くからの友人でありますが、ピアニストのみならず音楽に対する純粋さ、あらゆる見識の深さを持っています。批評・評論家としても素晴らしい方です。」
「スウェーデンはマルメ市立歌劇場のゲストコンサートマスターとして度々訪れていますが、スウェーデン人の気質は私達日本人と非常に近いものがあるように感じます。奥ゆかしさとそれに相反して熱い思いを内側に秘めるところなど、その最たるものだと思います。北欧のインテリアやスウェーデンのIKEAは日本でも人気が高いですが、音楽についても日本人の琴線にだけ触れる魅力があるのではないかと感じます。アジアと北欧の融合は今回の大きなテーマでありチャレンジです。」

「ここでしか体験できない、というエンターテインメントをお客様には感じ取ってほしいですね。」と鈴木は語る。3日間の開催期間のうち、2日目は関連イベントとしてアートフォーラムあざみ野での鈴木理恵子&若林顕という国内トップレベルを誇るデュオによるミニコンサートが開催される他、みなとみらいエリアの人気スポットである象の鼻テラスでのパフォーマンスが予定されている。コンサートホールと野外というボーダーも超えるこの音楽祭は、この秋特別な体験となるだろう。

 

 

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